SAHO TERAO / 寺尾紗穂

寺尾紗穂オフィシャルウェブサイト

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装幀:佐藤亜沙美

定価:本体価格1700円+税
ISBN 978-4087711172
2017年発行
224ページ

寺尾紗穂『あのころのパラオをさがして』書評    評者 岸政彦


 一度だけ、寺尾紗穂と会ったことがある。そこにいるのにいないような、不思議な透明感のあるひとで、こちらの言葉がすべて吸い込まれる乾いた砂のような耳を持っていると思った。それに比べて自分は、体も声も大きくなにもかもがさつで、とても恥ずかしく感じたことを覚えている。

  その少し前、寺尾紗穂という存在を知ったときに、ミュージシャンとしての寺尾紗穂と、ノンフィクション作家としての寺尾紗穂が、どうしても頭のなかで結びつかなかった。彼女のピアノと歌はとても美しく、私の記憶のなかでその儚い佇まいや所作と結びついて、音楽家としてのひとつの像を形成したが、しかしその同じひとが、原発労働者や植民地時代の南洋諸島を取材して本を書いているとは、にわかに信じ難かった。ジャンルを超えて表現をするひと、というものはたくさんいて、しかし大抵は、その表現のあいだには何か一定のまとまりや共通性があるものだが、彼女の場合はかけ離れている。そして、そのかけ離れ方が、私にとってはとても痛快だった。何でも自由に、好きなことを表現してよい。私は寺尾紗穂から、そのことを教えてもらった。

  何かに出会ったら、徹底的に付き合う。ものでも場所でもひとでも、はじめから区別しない。たとえばもし彼女が猫好きなら、路上で目があった子猫をついつい拾って、そして最後まで育てるような、そういうひとなのではないか。一度しかお会いしたことがないが、そう思う。

  寺尾は、中島敦の本をかばんのなか入れ、サイパンを訪れた前作(『南洋と私』)に引き続き、パラオを訪れる。私たち読者は、筆者とともに、照りつける白い日差しのなかを歩く。熱帯の濃い緑の葉が風にそよぐ音、派手な色をした見たこともない鳥たちが歌う声が、確かに聞こえてくる。寺尾の耳はすべての音を吸収し、目はすべての色を焼きつける。私たちは寺尾の目や耳となって、太平洋の青い海を眺める。

  私たちの表現は、たとえば音楽なら個人的で親密な領域へと縛り付けられる。あるいは、たとえば社会や政治を論じるときは、巨大で荘厳な物語に取り憑かれる。しかし本書では、私たちは、小さな虫の羽音、真昼に建物の庇の影に入ったときの、あの方向を失う感じ、市場で地元の買い物客がにぎやかにおしゃべりする声を味わいながら、同時にあの「戦争」というものがいったい何だったのか、そしてその戦争というものの上に築き上げられながら、まるでそんなものなかったかのような顔をしている私たちの社会がいったい何なのか、ということを、考えさせられることになる。寺尾は、小さなものと大きなものとを、区別しない。音楽と文学を区別しないのと、同じように。

  寺尾紗穂は、中島敦とともにパラオを歩いた。やがて近い将来、寺尾紗穂の本書とともにパラオを歩くものがいるだろう。そのようにして物語は引き継がれ、語り直されていく。そして歌もまた、歌い継がれていく。その真ん中に、寺尾紗穂が立っている。そこにいるのに、まるでいないような、そんな立ち方で。

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サイパン、沖縄、八丈島 ――
ミュージシャンで作家、寺尾紗穂が、戦争の痕跡をさがしもとめ、十年を費やし、生きた証言を拾いつづけたノンフィクション。

サイパン戦。
かつて日本が統治していた地で繰り広げられた、日米の戦争。
日本は甚大な犠牲を出し、バンザイクリフの名は今も知られる。
しかし私たちは、そこで巻き込まれた島民、生き抜いた者のその後を、想像することがあっただろうか。

戦争を知らない世代に届けたい、声がある。

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各氏推薦!!

「多くの声が聴こえる。小さくて悲しい。でもとても大切な声だ」
......森達也

「歳月の元手がかかっている。だから本書の言葉は、ずしりと響く」
......重松清

「日本に統治された南洋で生きた人たちの、生の声に耳を傾ける。昔の話ではないように思える。私たち人間の、もっとも醜悪なところともっともうつくしいところを垣間見たような気持ちだ。」
......角田光代

(以上、オビより)
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 著者:寺尾紗穂

装幀:佐々木暁

定価:本体価格1800円+税
ISBN 978-4-89815-416-8

2015年発行
仕様[四六変型/272ページ/上製]

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内容紹介

現場の声から見えてきた驚きの実態とは?

ゼロから原発を考え直すために
ひとりの音楽家が全国の原発労働者を訪ね歩き
小さな声を聴きとった貴重な証言集!


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【平時の原発労働を知る】

日本に地震があるから、津波があるから、ではない。
安全基準が信用できないから、放射能が漏れると怖いから、でもない。
今から私がスポットをあてるのは、
チェルノブイリや福島のような大事故となった非常時の原発ではなく、
平時の原発で働き、日常的な定期検査やトラブル処理をこなしていく人々だ。
彼らの視点に立つことで、社会にとっての原発、ではなく、
労働現場としての原発、労働者にとっての原発、といった角度から、
原発をとらえなおしたい。――序章より


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【目 次】

序 章 三十年間の空白
第1章 表に出てこない事故
第2章 「安全さん」が見た合理化の波
第3章 働くことと生きること
第4章 「炉心屋」が中央制御室で見たもの
第5章 そして3・11後へ
第6章 交差した二つの闇
終 章 人を踏んづけて生きている

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愛し、日々

天然文庫
[文庫 288ページ]

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愛し、日々

初のエッセイ集。18歳から28歳の現在に至る10年間の時の移ろいを残酷なまでに浮き彫りにする、ワルツのように愛(かな)しい青春の記念碑。

挿絵=都守美世 編集=北沢夏音

評伝 川島芳子―男装のエトランゼ

文春新書 625
ISBN 9784166606252
800(840)円
[新書判 264ページ]
2008.3.20

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評伝 川島芳子―男装のエトランゼ

男装の麗人として話題をふりまき、戦後はスパイとして漢奸罪で処刑された清朝の王女――川島芳子の劇的な一生をテレビで知った中学生の時から、日中両国で十年をかけて調べあげた「男装の麗人」の新しい女性像。東大大学院の修士論文を元に書かれた初の著書。


目次 : 1 誕生から幼少時代(義和団事件と二人の父/ 日本での幼少時代)/ 2 復辟と養父(川島家と芳子/ 「ジャンダーク」と「支那」/ 孤児として/ 恋愛騒動と断髪/ 断髪男装の背景)/ 3 マス・メディアの中の川島芳子(『男装の麗人』と満洲―小説、映画、舞台/ 男装の意味するもの―新聞記事を中心に)/ 4 詩歌と裁判(皇后脱出から定国軍まで/ 「親善」への憂い/ 逮捕と裁判/ 芳子の「武士道精神」そこに読み取られたもの)

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